伊東温泉の歴史と風情を伝える木造の建築美「東海館」

《伊豆リゾート通信》


<伊東~伊豆高原>周辺 ~観光と自然散策~

伊東温泉の歴史と風情を伝える「東海館」
昭和初期の職人たちが腕を競った建築美

松川沿いの遊歩道から眺めた東海館

 伊東市の指定有形文化財でもある「東海館」は、伊東温泉の松川河畔にたたずむ木造3階建ての風情ある和風建築です。
 1928年(昭和3年)に温泉宿として開業しましたが、創業者の稲葉安太郎氏が町内で材木商を営んでいたことから、桧や杉などの高級木材や変木とよばれる形のかわった木々をふんだんに用い、当時の職人たちが腕をふるった自慢の建物となっています。建築家や建造物に興味ある人など、現代では貴重ともいえるその独特な意匠デザインや手工技術を見ようと訪れる人たちも少なくありません。
 1997年(平成9年)に温泉旅館としての長い歴史に幕を閉じましたが、その後、伊東市に寄贈され保存改修工事が行われて2001年(平成13年)に観光施設となりました。現在は自由に見学(入館料:大人200円)ができる市を代表する観光・文化施設のひとつとなっています。



随所に和の美意識を極めた意匠デザイン
自然の形や趣を生かした変木や奇木の味わいも

 風格ある唐破風の玄関には、地元の彫師・森田東光が緻密に彫りあげたという旭日や鶴などの彫物が飾られています。館内に入ると正面の中庭は自然光が降りそそぐ吹き抜けの設計。群馬から取り寄せたという中央の大きな石は亀の形をしており、雨に濡れるとまさに亀の甲羅のように緑色に照り輝くとか。1階の奥には喫茶室があり、コーヒーや甘味などが提供されています。
 東海館の建造には、創業者が材木店を営んでいたこともあって、形状や木目など美しく質の良い高級な木材が内外から取り寄せられ随所に使われています。
 とくに当時、腕が良いと評されていた棟梁3人に各階ごとを競作させたこともあり、各部屋の床柱や欄間、飾り窓や書院障子のデザイン、廊下の組木や階段の手すりなど、それぞれに個性を競い合った職人技と趣向を凝らした意匠を見ることができます。
 老舗旅館らしいどこか懐かしい情趣ある廊下は、各部屋の入り口を少しずつ斜めにずらして雁が並んで飛んでいるような雁行型という独特な設計になっています。廊下の梁や客室入り口にはやはり自然の形状を生かした奇木や変木が飾られており、室内には黒檀や紫檀などの高級素材や数々の銘木が見てとれます。とくに付書院といわれる障子部分の飾り窓には、各階別にそれぞれ個性ある和風の幾何学模様といったデザインが印象的です。

雁行型の廊下(左)と各階の部屋ごとに意匠を凝らした書院障子のデザイン(右)

館内の随所で見られる変木や奇木も見応えが…


2階には伊東にゆかりある歴史的人物の展示室
ギャラリーには彫刻家・重岡建治氏の作品を展示

 2階には部屋ごとに展示室(歴史の小部屋)が設けられており、伊東市にゆかりのある歴史的人物=伊東で日本初の洋式帆船を建造した英国人ウイリアム・アダムス(三浦按針)や伊東に別荘を構えていた東郷平八郎元帥、伊東の開祖と言われる伊東祐親などの資料類や関連の品々が陳列されていました。
 また、同フロアに設けられた展示場「東海館ギャラリー」には、市内の大室高原にアトリエを構えて制作活動を行なっている彫刻家・重岡建治氏の作品群が展示されていました。氏のブロンズ作品は伊東市街やなぎさ彫刻公園などで多数を目にすることができますが、その独特なモニュメント作品は日本各地や世界各国でも賞賛を浴びています。
 ギャラリーの一角には、日本オリンピック委員会(JOC)が毎年優秀なスポーツ選手やチーム、指導者などを表彰する「JOCスポーツ賞」のブロンズ像も飾られていました。重岡氏は1992年度より毎年、このトロフィーの制作を行なっているということです。

彫刻家・重岡建治氏の作品が鑑賞できるギャラリー。右は「JOCスポーツ賞」のトロフィー


「お座敷文化大學」では芸者姿やお稽古体験など
土・日・祝には歴史と風情を感じる日帰り温泉も

 3階に上がると、かつて120畳だったという大広間が広がり、4階には伊東温泉の街並みや伊東の海などを見渡す望楼が展けています。
 広々とした大広間には舞台がしつらえてあり、かつて芸妓さんたちによる唄や踊りを楽しみながら多くの温泉客が宴席を楽しんでいた様子が偲ばれます。舞台の両脇には孔雀と牡丹がみごとに彫られたケヤキの一枚板が据えられています。
 東海館では、春季と秋季に伊東市と伊東観光協会の主催で伊東温泉「お座敷文化大學」(主管・お座敷文化大學実行委員会)が開かれ、一般のお客様も芸者体験などの様々なお座敷文化が学べるようになっています。そのうち「芸者姿体験コース」の記念撮影や「お座敷お稽古コース」のお稽古体験などに、この大広間が活用されているそうです。

芸者体験などが学べる「お座敷文化大學」も開かれている


 館内には、床から壁まで総タイル張りという温泉浴場もあり、土・日・祝日のみ日帰り温泉として利用(別料金)できるということです。大小の浴槽があり、大きいほうの浴槽には獅子の彫刻、小さいほうの浴槽には蛸(たこ)の彫刻が彫られており、どちらも前出・地元出身の森田東光作といわれています。昭和初期の伊東を代表する老舗旅館の歴史と風情を感じながら、のんびりと旅のお風呂を体験するのもまた一興です。

120畳の広さを誇った3階の大広間               歴史と風情を感じる温泉浴場


(写真協力:伊東観光協会)

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